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妄想です。
とあるキャラのお父さんと誰かの物語。
これは若干オリキャラ扱い…というか、自分設定になってしまうのかしら…
注意です。ごめんね!

その歌を聴いたとき、わが目を、いや耳を疑った。

妻が遠慮がちに私の部屋をノックした時、私は地図を眺めていた。
ファ・ディールの世界地図。
いつの時代の世界地図を見ても、その形は殆ど変わらない。
一つの小さな島を囲んで、他の国々が配置されている。
世界の中心を守るかのような位置づけだ。
たとえば、南が北に、東が西に、方向が逆転していても、この島は絶対に世界の中心に鎮座する。
禁断の地、イルージャ島。
私が何故、世界に満ちる力に魅せられるのか、何故イルージャに憧れるのかは全くわからない。
ただ、世界の謎を紐解くには欠かせない存在だということは、たしかである。
イルージャの民の血を引く(らしき)女性を妻としたのも、私の運命かもしれない。
私はこの飽くなき思いを満たすことだけを考え、気がつけばその分野の研究の第一人者となっていた。
それで家族が養えるのだから、自分の幸運には感謝しなければなるまい。

ともかく、論文を書く間にぼんやりとしていたものだから、ノックの音で現実に引き戻された。
入るよう促すと、妻は奇妙な表情を浮かべながら、娘を伴って部屋に入ってきた。
「どうした、ティスに何かあったのか?」
妻は私の問には答えず、娘に言った。
「ティス、お父様にも、さっき歌っていたお歌を聞かせてくれる?」
「うんっ」
娘は元気に頷くと、ニコニコと笑いながら歌い始めた。
それは、イルージャの祭りで歌われる歌だった。
伝統的に歌われてきたその歌は、口伝えのためか時代によって、少しずつ歌詞が変わっている。
娘が歌っていた歌は、その中でも最古の、現存するイルージャの民さえ知る者は少ない歌詞だった。
なぜ、私の娘が。
私は娘に時々勉強を教えはするが、研究のことを詳しく話した覚えはない。
妻は、私の研究を手伝ううちに、学者のしての才能を開花させた才女だが、娘に研究のことを教えている様子はなかった。
(私のイルージャ熱が、娘にうつらないか、心配するくらいだ)
「ティス、その歌をどこで教えてもらったんだい?」
「この前お城に行ったときに、ピエロのおじさんに教えてもらったよ。」
…ピエロ…?
確かにこの前、娘を城に連れて行った。
今、ロリマーは国の発展のため、学術にも力を入れている。
私はロリマー軍強化に反対している立場だが、それでも学問を教えたり、研究を発表したり、王室の図書館を使うために、城を訪れる機会が多いのだ。
しかし、ピエロには心当たりがない。
…イルージャ古代の歌を知るピエロ…そんな者がいたら、会ってみたいくらいだが…
「ストラウド様が、楽団でも呼んだのかしら?」
「いや、それはないだろう。
楽団だったら、一人でも多くの傭兵を雇うような方だ、あの人は。」
そこまで言って、ふと、一人の人物に思い当たる。
…まさか、あの男が。



娘を連れて、ロリマー城の庭園を歩く。
雪が降っていない僅かな期間だけ、庭は開放されている。
しかし、城全体が殺伐としすぎているためか、庭に訪れるものは少ない。
どうしても確かめたいことがあって、王室にある資料を閲覧したいなどという建前で、城を訪れたのだ。
「前はここにいたよ、ピエロのおじさん。」
娘に引っ張られるまま、木々の間を進んだ。
会えるだろうか。
…いや、その可能性は、はっきり言って高くはない。
何と言ってもその男は、ロリマー軍の強化を一身に引き受ける軍事顧問なのだ。
本名は知らない。
というより、聞いたことがない。
しかし、人々は彼を、仮面の導師と呼ぶ。

「あ!いたよ!」
突然娘が声を上げたので、驚いた。
娘が指差す先を見ると、庭園の隅で絵を描いている男がいた。
異国の奇妙な服と仮面。
間違いなく、彼だ。
「おじさん!」
娘は私の手を離れ、男に駆け寄っていく。
男は、キャンバスから顔を上げて娘を見ると、穏やかに微笑んだ。
「こんにちは、お嬢さん。
…今日は、お父さんと一緒かい?」
「うん」
男がじっと私を見つめていたので、私は彼に近づいた。
ロリマーを一気に強国へと押し上げたその男は、自身も剣技に長け、人間離れした技を操るという。
緊張しながらも名を名乗り、娘に連れられてきた経緯を、思い切って打ち明けてみた。
男は優雅な微笑を絶やさぬまま、黙って私の話を聞いている。
「…なるほど、そういうわけですか…」
彼はなにやら物憂げな様子で、キャンバスに目を移した。
私もつられてキャンバスを見て、一瞬にしてその絵に引き込まれた。

若い頃、研究のためにウェンデルの商船に乗り込み、イルージャ島へ行ったことがある。
大海原に浮かぶ一本の樹。
幻想的な光景を飽きもせず眺め、島に近づくにつれて胸が高鳴るのを感じた。
しかし、大樹は近くで見ると、その時を止めているのがわかる。
遠めに見れば陽の光を反射して、みずみずしく思えた枝葉も、石と化していて命の息吹を感じない。
どうしてあんなに悲惨な姿になってしまったのだろう。
そして、あの樹が生きていた頃は、どんなに美しかったのだろう。
遠き昔に思いを馳せながら、イルージャ島を後にしたあの日。

キャンバスの上には青空と、そして大樹が描かれていた。
まだ完成途中であることは、芸術に疎い私でもわかる。
しかし、描かれていた樹は昔見た石の樹ではなかった。
生命力に溢れ、力強くそびえる大樹の姿がそこにはあった。
伝説の聖獣が空を舞い飛び、精霊たちが人間と共に大樹に寄り添って生きる姿さえ、見えるかのよう。
過去に描かれた、多くの芸術作品を凌駕して、在りし日の大樹を私に見せてくれた。
「これは…」
「ええ、大樹です。
…拙い腕前で、お恥ずかしい限りですが。」
「いや、そんなことはない。素晴らしい絵だ。」
私は素直に絵を褒める。
彼はただ、口元だけで微笑んでいた。



こうして、私と彼の奇妙な交流が始まった。


周りには、強兵策を着々と進める彼と、イルージャ侵攻に警鐘を鳴らす私が一緒にいることを、奇妙に思う者がいるらしい。
しかし、私達は、この件について話すことはなかった。
彼が私に付き合ってくれるのは、私を認めてくれているのか、それとも、イルージャ侵攻の障害にはなりえないと思っているのか。
正直、私にとってはどちらでも良かった。

ちなみに、彼がどうして古代の歌を知っていたか、私は聞くのを断念した。
彼は、自身のことについてあれこれ詮索されるのは嫌う性質らしい。
私がそれとなく聞きだそうとしても、ゆるやかにかわされてしまう。
「研究者という者は、答を知らなければ気がすまないのですね。」
と、笑われてからは、私は彼について尋ねることをやめた。

私は娘を連れて、研究ノートや論文の草稿を持ってきて、彼に話す。
彼は絵を描いたり、娘の相手をしたりしながら、私の話を聞いてくれる。
彼は洞察力が非常に鋭く、彼の考察や意見が、研究を進めるのに大いに役に立った。


一度だけ、彼は娘と一緒に歌を歌った。
私に文才がないのが、非常に悔やまれる。
優しい歌声は大気に溶けて、どこまでも広がっていくようだった。



冬が近づいてきたある日のこと。
どうしてこの庭で絵を描いているのか、彼に尋ねてみた。
(娘はこの日、風邪を引いたので連れてこれなかった。彼は心配してくれた)
「ここなら人は殆どいないし、緑も多いので…」
そう言いながら、彼は筆を置く。
「…できました。」
私は、彼の後ろからキャンバスを覗き込んだ。
何度見ても、新鮮な感動を与えてくれる絵だった。
「…この頃の大樹を、見てみたいと思いますか?」
彼は初めて、私に尋ねてきた。
「ああ、もちろんだ。
きっとこの絵のように、美しいのだろうな…」
ため息を洩らすかのように、呟いた。
すると、彼は咽の奥でくっと笑った。
「こんなものに頼らずとも、人は生きていけるというのに?」
嘲笑うかのような言葉。
彼の纏う空気が、一気に禍々しくなっていくのがわかった。
思わず、私は後ずさる。
「たしかに、大樹のあった世界は平和で美しいのでしょう。
しかし、大樹は私達に、自分の手で平穏を掴むことを、教えてはくれなかった。
他人任せの平和の代償は、高くつくのですよ。」
「それが、イルージャ侵攻の目的か。」
口に出した後で、しまったと思った。
彼は、ゆっくりと私に向き直る。
口元だけに、笑みをたたえて。
「まさか。
ただ、私は、いや私達は、そのために犠牲になった。」
彼は奇妙な帽子を脱ぎ、仮面を取り外す。
血色の悪い肌の上を、這うようにして描かれた不気味な紋様。
私を見つめるその双眸は、鮮血のように赤かった。
何よりも、整いすぎた彼の顔立ちが、彼を化け物じみた容貌に見せていた。
「…それだけのことですよ。」
彼は、再び笑う。
いや、笑ってなどいない。
この男にははじめから、感情などなかったのだと、私はようやく悟った。
私どころか、世界すらどうでもいいのだろう。
…では、この男の望みは一体何なのだろう。
世界の破壊?
大樹への復讐?
そんなものではないだろう。
私にはきっとわからない、知る必要のないことなのだ。
高く結わえた彼の新緑の髪が、さらりと靡く。
「風が冷たくなってきましたね。
庭が閉鎖される前に、描き終えてよかった。」
彼は再び、仮面と帽子を身に着けた。
私は、そこでようやく安堵した。
道化師のような格好の方が、人間らしく思えるなんて、この男は本当に不思議だ。
「風邪を引いたら大変です。
早くお帰りになられたほうがよろしいでしょう。」
彼は、画材をしまい始める。
私はそっと、その場を立ち去った。



いよいよイルージャに侵攻する時が来た。
大掛かりな祝賀式が開催される。
私も列席することが出来たので、鞄に一冊、書籍を入れてきた。
出航直前、幸運にも彼と接触することが出来た。
彼はあらかたの指示を終え、少し離れた高台から、船を見守っていた。
たまたまなのか、護衛の兵士(ゴーレム兵だ)もいない。
彼は私に気がついて、いつもどおりの穏やかな笑みを浮かべる。
その笑みがかりそめであっても、もはや私は気にしない。
私は鞄から本を取り出し、航海の途中、暇だったら読んで欲しいと、彼に手渡した。
「これは…素晴らしい書籍ですね…」
パラパラと本を捲り、彼は言った。
「上巻…ですか。」
「すまない、下巻は間に合わなかったんだ。」
あの後すぐに庭が閉鎖され、彼と会う機会が無くなった。
そのため、研究も大幅にスピードダウンしてしまったのだ。
「ありがたく頂戴いたします。
きっと世界中で評価される本になりますよ、これは。
…娘さんも、お父様のことを、誇りに思うでしょうね。」
「だといいが。
でも、興味は持ってくれると思う。
娘は、イルージャの民の血を引いているから。」
彼はページを捲る手を止め、顔を上げて私を見た。
「…ああ、だから…」
彼は、ふわりと微笑んだ。
今までで一番、穏やかな笑みだった。
「時が違えば、彼女も大樹に仕える者となったかもしれません…
そうならなくて、本当に良かった。」
それは彼の、心からの言葉だったと、私は信じている。


艦隊が見えなくなるまで、私は海をひたすら見続けた。
まるで、イルージャに乗り込んだあの日のように。
冷たい潮風にせかされるように、私はようやくその場を去る。
今から、私がやるべきことは二つ。
本の続きを完成させること。
そして、大樹の呪いが解けるという危険性を、各国に知らしめること。
これからどうなるかはわからない。
ただ、自分たちの平穏は、自らで掴まねばならないと。
彼の言葉と、不気味な紋様が心に浮かんでは私の心をかき乱す。
やるしかないのだ。
私は、もしかしたらそのために生まれ、マナの研究をしてきたのかもしれないと思った。



ティス父の渡した本は勿論『マナ全書』です。
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