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HEAVEN’S GATE


二人の間の空気は、酷く張り詰めていた。
だから、ちっとも動けなかった。
モンスター相手の戦いでは、絶対に生まれない緊張感。
それはきっと、思いと思いの殺し合いだったんだ。


僕は、どちらが正しいと思ったから、その人に加勢したわけじゃない。
最初に斬りかかったのがエスカデだった。だから、僕はダナエを庇った。
それだけだ。それだけで僕は、エスカデを奈落に送ったのだ。
剣を落として、弱っていた彼に、とどめをさしたのはダナエだった。
僕に殺しをさせたくなかったのか、それとも、自分で倒したかったのかはわからない。
大地に仰向けに倒れたエスカデは、最期に、手を空に向かって伸ばしていた。
まるでそこに、自分の剣でもあるかのように。
きっと僕は、阿呆みたいに、その光景を凝視していたのだろう。
ダナエが、僕に、マチルダの所に行くように促した。
石でできた階段に目を向け、ふとエスカデに視線を戻したとき、彼はもう既に息絶えていた。





突風が吹いたから、慌てて頭巾が風で飛ばないように押さえた。
こんなときに、頭巾一つを気にするなんてと、ちょっと笑ってしまった。
僕とダナエが歩いているのは、アーウィンが復活させた光鱗のワーム、「ルシェイメア」の背。
アーウィンはこれで世界を滅ぼすつもりらしい。
ルシェイメアの背は、白くごつごつとした起伏がたくさんあって、それなのに脆い。その上、移動しているから上下にゆれる。
そんなところでも容赦なくモンスターが襲ってきた。きっと、ルシェイメアの遺骸の上で、生活していたのだろう。

「ダナエ、こっち・・・入れるみたいだ。」

僕は彼女の手をとって、ルシェイメアの体内に入った。
口内に埃っぽいものが入り込んできて、咽る。
ダナエが大丈夫かと聞いてきた。小さく頷き、彼女に口を布か何かで押さえるように指示した。

「・・・だいぶ腐敗が進んでいるのね・・・胞子がたくさん。」

歩くと、じゃりっという嫌な感触がした。そのくせ、足を上げようとすると、粘つく。これでは思うように動けないかもしれない。
幸い、通路が狭いから、モンスターが何体か出てきても、囲まれないですんだ。




「・・・ごめんなさい・・・巻き込んでしまって。」
ヌンチャクで容赦なく敵の頭蓋を叩き割りながら、ダナエがぽつりと言った。
「でも、あなたには悪いけど、『あの時』、あなたが逃げ出すそぶりを見せたら、殺すつもりだったわ。」
やっぱりそうだったのか。
僕は軽く肩をすくめた。
「エスカデもそれは同じだったと思うな。」
あの時は、二人とも僕のほうを全く見ずに、それでも僕に集中していた。
僕が加勢したほうが、俄然有利になるからだ。
「僕は取り返しのつかないところまできたからね。丁度君達が、こんな結果を迎えてしまったように。
今更逃げようと思わない。だから今、こうして此処にいる。」
剣についた血を、軽く振り払って鞘に収めた。
そのまま奥に進む。
胞子が口に入りそうなのが嫌だし、話したい気分ではなかったが、ダナエが落ち着くなら、彼女の質問に答えようと思った。
「・・・結局、何が正しかったのかしら。」
彼女は明確な答が欲しいのだ。
それは僕にはわからない。僕が軽々しく答えていいものではない。
僕は賢人ではない。
でも、彼女は僕の考えを聞きたがっている。
彼女の望む答ではないとはわかりながら、僕は口を開いた。
「君たちの誰かが悪かったんじゃないと思うよ。
それだけは、僕には言えると思う。」
「じゃあ、何がいけなかったのかしら。」
「不必要なのに残り続けた、家柄、規律、思想・・・かなぁ?
昔はそれが無くちゃダメだったんだけどね、時代は変わるから。
そんなものが無い時代に生まれれば、もしかしたら・・・
・・・ごめん、考えても仕方の無いことだよね。」
ダナエは首を振った。ちりちりと、鈴のイヤリングが音を立てる。
むっとした空気の中、その音だけが清涼感があった。



「私・・・マチルダの考えていることが時々わからないわ。
マチルダのことは今でも好き。ずっと一緒にいて、生きて、幸せになって欲しいの。
私が思っていることって、たいそれたことかしら。そんなささやかな願いすら、叶わないのかしら。
でも、私が望んでいることは、マチルダの『自由』を損なうことなの?
それじゃあマチルダは幸せになれないの?」
「ダナエ、悲観しても始まらないし、自分を責めちゃダメ。それこそ、本当にマチルダは悲しむよ。
一つ聞くけど、ダナエはマチルダにアーウィンを止めて、一緒に妖精界に行って、幸せに暮らしてほしかったの?
それはエスカデが望んだこと?」
「世の中は理不尽なことがたくさんあるわ。エスカデは・・・それを知るべきだったのよ。」
リフジンくん!!
楽しげなセイレーンの女の子の声が、脳内に響いて、ちょっとおかしかった。
「マチルダは、賢人みたいだね。
・・・ああ、ごめん、考え方とか、そういうのじゃなくて、君たちに決定的な影響力があるという点でね。
だって、マチルダが望めば、事態は簡単に収束するじゃないか。
賢人達がその力を発揮すれば、世界を支配できてしまうみたいに。
でも、マチルダは君たちに自由であって欲しいのかもね。マチルダは、君たちを支配することは望まなかったんだ。」
「それが皆の幸せとは限らないわ。」
「ダナエは幸せであることが一番重要なんだね、僕もそう思う。
でも、エスカデは幸せであることよりも、正義とか誇りとかのほうが大事だったんだんじゃないかな。」
「難しいわ・・・幸せであるということが、自由であるということでも、プライドを守るということでもないのね。
・・・!」
いきなり明かりが差して、ダナエは目を細める。
「ここから外に出られるみたいだね。」



脆い内殻をよじ登って、改めてルシェイメアの背中に出る。
白いルシェイメアの背が、紅蓮に燃えている。もう夕方だ。
視界を下に向ければ、美しい風景が広がっていた。僕の知らない森と湖が、茜色で塗りつぶされている。でも、見とれている場合ではない。
出てきたところに振り返って、ダナエに手を差し伸べる。
彼女を引き上げる際に、胸元から何かが落ちた。
見るとそれは、マチルダから貰ったブローチだった。
名前は・・・何だっけ。ああそうだ、愛のブローチとか何とか言ってたな。
手の中で小さく光る、黄金色のブローチを、じっと眺めた。
「・・・神騎さん?」
ダナエが心配して、声をかけてきた。
「ああ。なるほど。」
ブローチを握って、ズボンのポケットに突っ込んだ。
「愛すれば、よかったのか。」
ポツリと呟いた。案の定、ダナエは首をかしげる。
その時、頭上からくすくすと笑う声がした。
丸くてふわふわと宙に浮く謎の人物。
「あなたは・・・?」
ダナエが聞いた。
「私はセルヴァ、アーウィンがルシェイメアを復活したと聞いて、見学に来たんだ。」
「賢人・・・!!風の王の・・・!?」
ダナエが絶句する。
「どうする?アーウィンはまだ全然本気じゃないぜ。」
戻るなら手を貸そう、と言っているのだ。
「大丈夫。ダナエ、行こう。」
「待って、神騎さん、ちょっと尋ねたいことがあるから。」
ダナエは僕の手を取って引きとめた後、セルヴァに向き直る。
「セルヴァ、どうしてなの?賢人の力を持ってすれば、アーウィンを止めることなんて、わけないのでは?
なのに、どうして?」
「ダナエ、マチルダと一緒だよ。
賢人が支配し、管理する世界じゃ、不十分だ。
それに、今回賢人が出るまでも無いよ。」
セルヴァは、こらえきれずに吹き出した。
「どうして?神騎さん」
ダナエが困惑しきった顔で言う。
僕は足で地面を、トントンと軽く叩いた。
「火山を飲んで死んじゃうような生き物だよ、これは。
世界を破壊しつくせるような、たいそうな物じゃない。死にかけだしね。
それでも、被害は最小限に食い止めたいんだ。だから、先を急ごう。」
「いい目だ、少年。前に見た時より、ずっといい。」
セルヴァは今度は口元に手を当てて、ニヤニヤしている。
それを見て、ちょっと気分が軽くなった。賢人さんたちは本当に楽しい人たちだなぁ、と、のんきに考えた。





アーウィンを、倒した。
召還した主が死に、今まで自分を現世に留めていた魔力が無くなって、ルシェイメアは崩れ落ちた。
カンクン鳥に乗って帰った僕らを待っていたのは、マチルダの死だった。
傷つかないといえば、嘘になる。
でも、ダナエはもっと辛いだろう。
ちょっとの間、一緒にいてあげて、僕はガトから去った。
きっと、いつかは幸せになってくれると、僕は彼女を信じることにした。



ブローチをズボンのポケットから取り出した。相変わらず、美しく輝いている。
『そのブローチは昔、魔導士が女神から授かったものでね。
それを得た者は、あらゆる試練を、愛によって乗り越えなきゃならない。
そんな嫌そうな顔をするな。今回みたいなことがそうそう起こるわけじゃない。
それに君は愛することの必要性を、知ったじゃないか。
理解なんて出来なくとも、戦わずにすむ、もっと豊かになれる。だろう?』
セルヴァの言葉が蘇る。
僕はぎゅっとそれを握りなおして、また歩き出した。

ああ、そういえば、今回剣が刃こぼれしちゃったんだっけ。
鍛えなおさないと。工房借りなきゃね。
あ、そうだ、アレは彼女がアトリエって言ってた。たしか、そっちのほうがオシャレで可愛いからって。
太陽みたいな彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「羅樹華に会って、色々話さなきゃ。」
また心配かけちゃったからね。特に今回の件では。
何かお土産を買っていこう。羅樹華はひよこ蒸しパンが好きだったよね。
そう思うと、自然と足取りが軽くなった。
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